近年、AI技術の進歩により、クラウドではなくデバイス側でAI処理を行う「エッジAI」が注目を集めています。特に、手頃な価格で高性能なラズベリー・パイ(ラズパイ)との組み合わせは、個人開発者から企業まで幅広く活用されており、製造業、物流、小売業などの現場で革新的なソリューションを生み出しています。
本記事では、なぜ今エッジAIとラズパイの組み合わせがこれほど注目されているのか、最新のラズパイ5がエッジAI実装に最適な理由、そして実際にラズパイでエッジAIを始めるための具体的な手順まで、初心者にも分かりやすく解説します。リアルタイム画像認識システムを実際に構築する過程も紹介するので、この記事を読み終える頃には、あなたもエッジAIの世界に足を踏み入れることができるでしょう。
1. エッジAIとラズパイの組み合わせが今アツい理由

昨今、エッジAIとラズベリー・パイ(ラズパイ)の組み合わせが大変注目されています。この背景には、エッジAIが持つ先進的なデータ処理能力と、ラズパイの優れた柔軟性が密接に関連しています。これから、その理由を詳しく見ていきましょう。
エッジAIの魅力
エッジAIとは、データをクラウドに送信することなく、デバイス自体でデータ処理を行う技術です。このため、以下のような利点があります。
- 低遅延: データをリアルタイムで処理できるため、迅速な応答が可能です。
- プライバシーの保護: データがデバイス内に留まるため、個人情報や機密情報の漏洩リスクが低減します。
- 通信コストの削減: データ量を最小限に抑えることができ、通信にかかるコストを削減できます。
ラズパイの特長
ラズパイは、その手頃な価格と強力な性能から、教育や趣味だけでなく、産業界でも幅広く活用されています。特に以下の特長が、エッジAIと相性よく組み合わさっています。
- コンパクトなサイズ: 小型で嵌め込み可能な設計により、さまざまなプロジェクトに適応できます。
- 豊富な開発コミュニティ: 世界中のエンジニアが支えるオープンソースのエコシステムにより、様々なソフトウェアやライブラリが充実しています。
- 容易なプログラミング: PythonやScratchといったプログラム言語を用いることで、すぐに開発を開始できます。
なぜ今、エッジAIとラズパイなのか
エッジAIとラズパイを組み合わせることにより、以下のような新たな可能性が広がります。
- 効率的なデータ処理: デバイス上で直接データ処理を行うことにより、高速かつ効率的に情報を処理できます。
- コストパフォーマンス: 高価なサーバーを必要とせず、リソースの限られた環境でもAI機能を簡単に実装可能です。
- 現場での柔軟性: ラズパイの特性を活かし、現場のニーズに応じたカスタマイズが容易です。
産業活用の進展
特に製造、物流、小売業など様々な産業において、エッジAIとラズパイの組み合わせによるプロジェクトが急増しています。たとえば、工場内の異常検知システムや、店舗での顧客分析をリアルタイムで行えるシステムなどが具体例です。これにより、企業は競争力を高め、新しいビジネスモデルを構築するチャンスを得ています。
エッジAIとラズパイの相乗効果により、今後ますます多様な製品やサービスが生まれることが期待されています。その可能性は計り知れず、技術の進展とともにさらなる拡大を見せることでしょう。
2. ラズパイ5の性能進化がエッジAIに最適な理由

ラズパイ5は、最新のアーキテクチャと高度なスペックを搭載しており、エッジAIを実現するための強力なプラットフォームとなっています。その進化は、特にAI処理において顕著です。ここでは、その理由について詳しく解説します。
高速なプロセッサ
ラズパイ5の心臓部であるCPUは、クアッドコア2.4 GHz Arm Cortex-A76です。このCPUは、前世代のラズパイ4に比べて約2~3倍の速度向上を実現しています。この高い処理能力により、リアルタイムでのデータ処理や複雑なアルゴリズムの実行が可能です。エッジAIの分野では、迅速なデータ処理が不可欠なため、この性能の向上は大きな利点となります。
強化されたGPU
さらに、ラズパイ5に搭載されている800 MHz VideoCore VII GPUは、AI性能を大幅に向上させています。これによって、画像認識やビデオストリーミングなどの処理がスムーズに行えるようになりました。AIのモデルをラズパイ上で効率よく動かすことができるため、開発者は複雑なモデルを利用したプロジェクトを実現しやすくなっています。
データ入出力の向上
ラズパイ5には、データの入出力を担当する新しいRP1チップが搭載されています。これにより、カメラやセンサーからのデータを迅速かつ効率的に処理できます。特に、エッジAIの用途においては、リアルタイムでのデータ取得と解析が鍵となるため、この進化は見逃せません。
エコシステムとの相性
ラズパイは、開発者コミュニティやオープンソースソフトウェア(OSS)との連携が強力です。そのため、新しいライブラリやツールが迅速に利用でき、AIに関する新しい技術や手法を即座に試すことができます。これにより、ラズパイ5は実験的なプロジェクトや製品開発にとって、理想的な環境を提供しています。
まとめ: エッジAIの最適化
これらの性能の進化により、ラズパイ5はエッジAIの実装において非常に有利な選択肢となっています。開発者は、自身のプロジェクトに合わせて柔軟にラズパイを活用し、端末側だけで強力なAI機能を実現できるようになります。エッジでのAI運用は、今後の技術革新において重要な役割を果たすでしょう。
3. ラズパイでエッジAIを始めるための初期セットアップ手順

ラズベリー・パイ(通称ラズパイ)を利用してエッジAIをスタートさせる初期設定は、初心者にとっても非常に取り組みやすい作業です。以下に、必要な手順を分かりやすく解説します。
必要なもの
エッジAIを実現するための初期設定を行う前に、以下のハードウェアとソフトウェアを揃えてください。
- Raspberry Pi 5: 性能を最大限に生かすため、最新モデルのラズパイを選びましょう。
- MicroSDカード: オペレーティングシステム(OS)を格納するためのストレージで、少なくとも16GB以上の容量を推奨します。
- 電源アダプター: ラズパイに適した電源装置が必要です。
- HDMIケーブル: モニターとの接続に使用します。
- キーボードとマウス: 初期設定時に必要です。
- インターネット接続: ソフトウェアのダウンロードや更新を行うために不可欠です。
ラズパイOSのインストール
-
Raspberry Pi Imagerのインストール
まず、お使いのパソコンにRaspberry Pi Imagerをインストールします。Macを使用している場合は、brewコマンドを用いて簡単にインストールできます。 -
OSの選択
Imagerを起動し、使用するストレージとOSを選定します。最新のRaspberry Pi OS(Bookworm)が推奨されており、これを選ぶことで最新機能が利用できます。 -
MicroSDカードへの書き込み
ストレージとしてMicroSDカードを選び、OSをカードに書き込みます。書き込みが完了したら、そのカードをラズパイに挿入してください。
初期起動と設定
-
ハードウェアの接続
ラズパイを電源に接続し、HDMIケーブルでモニターに接続します。キーボードとマウスも接続しておきましょう。 -
Raspberry Piの起動
電源を入れると、OSが自動的に立ち上がります。初回起動時には言語設定やタイムゾーンの設定を行います。これらは最初の設定メニューから簡単に行えます。 -
インターネット設定
Wi-Fiまたは有線LANのいずれかを選択し、インターネット接続を確立します。これにより、必要なライブラリやソフトウェアのアップデートが実施できるようになります。
VNCの有効化
リモートからラズパイを操作したい場合、VNCを活用するのが便利です。
-
Raspi-Configの設定
ターミナルでsudo raspi-configと入力し、インターフェースオプションからVNCを有効化します。 -
VNC Viewerのインストール
ご自身のパソコンにRealVNC Viewerをインストールすると、ラズパイにリモートアクセスできるようになります。
ソフトウェアのアップデート
初期設定が完了したら、次にソフトウェアのアップデートを行います。ターミナルで以下のコマンドを入力してください。
bash
sudo apt update
sudo apt upgrade
これにより、ラズパイにインストールされているすべてのソフトウェアが最新の状態に更新されます。
以上の手順を完了させれば、エッジAIを実現するためのラズパイの準備が整います。次のステップとして、具体的なAIプログラムやライブラリのインストールを進めていきましょう。
4. ラズパイに画像認識AIをインストールして動かしてみよう

ラズパイを活用して画像認識AIを実行させるには、まず、必要なライブラリをインストールするステップが欠かせません。以下の手順を参考に、スムーズに進めていきましょう。
必要なライブラリのインストール
ラズパイ5に画像認識機能を取り入れるためには、いくつかの重要なライブラリのインストールが必要です。特に、OpenCVやONNX Runtimeは必須です。以下のコマンドをターミナルに入力して、これらのライブラリをインストールしてください。
bash
$ sudo apt-get install -y libatlas-base-dev
$ sudo pip3 install -U pip
$ sudo pip3 --default-timeout=1000 install opencv-python==4.7.0.72
$ sudo pip3 install onnxruntime
これで必要なライブラリが揃い、準備が整います。
カメラの接続
次に、画像キャプチャのためにカメラをラズパイに接続します。USBカメラを使用し、ラズパイのUSBポートに差し込みましょう。このステップでリアルタイムでの画像処理が可能になります。
画像認識AIの選定
効果的な画像認識を実現するためには、適切なAIモデルの選択が重要です。ここでは、物体検出において広く使用されているYOLO(You Only Look Once)モデルをおすすめします。このモデルは、スピードと精度を兼ね備えており、優れたパフォーマンスを発揮します。
YOLOを導入するためのサンプルプログラムのインストール手順は次の通りです:
bash
$ sudo git clone https://github.com/Kazuhito00/YOLOX-ONNX-TFLite-Sample.git
クローンが完了したら、ディレクトリに移動し、sample_onnx.pyというサンプルプログラムを実行します。
bash
cd YOLOX-ONNX-TFLite-Sample
python3 sample_onnx.py
プログラムの実行と結果
カメラを特定の対象物に向けると、リアルタイムで物体検出が始まります。認識された物体は画面上に表示され、例えば73ms以内に物体を認識することができるでしょう。
注意点
- ライブラリの互換性:OSのアップデートに伴い、特定のライブラリが非対応になる場合があります。常に最新情報を確認し、必要なライブラリが揃っているかを確認することが重要です。
- 性能の違い:ラズパイ5はラズパイ4との性能差が明らかですが、高負荷時にはパフォーマンスを慎重に監視し、適切な動作を確保しましょう。
これらのステップを踏むことで、ラズパイに画像認識AIを効果的にインストールし、その動作確認を行うことができます。画像認識機能を用いれば、さまざまな新しいプロジェクトに挑戦することが可能になるでしょう。
5. 実際にラズパイでエッジAIを動かしてみた結果と注意点

エッジAIをラズパイに実装する際、いくつかの注意点や得られた結果について詳しく見ていきましょう。特に、ラズパイ5の性能をフルに活かすためには、適切な設定やライブラリの選定が重要です。
実際の動作結果
私たちの実験では、ラズパイ5にカメラを接続し、YOLOを利用した物体検出を行いました。この成果として以下の点が挙げられます:
- 高い処理速度:ラズパイ5の性能向上により、物体検出をリアルタイムで行うことが可能でした。特に、FPS(フレーム毎秒)の値が向上し、スムーズな映像処理が実現しました。
- 認識精度:YOLOのモデルを用いることで、多様な物体を高精度で認識することができました。例えば、特定のオブジェクトを正確に捉えることができ、実用的な能力が証明されました。
注意点
エッジAIを実行する際には、いくつかの注意点があります。これらを考慮しながら実装することが成功の鍵となります。
- 温度管理:ラズパイ5は高負荷時に発熱するため、適切な放熱対策が必要です。特に長時間の運用時には、ヒートシンクやファンを活用すると良いでしょう。
- 電力供給:エッジAI処理は電力を多く消費しますので、安定した電源供給が大切です。バッテリーで運用する場合は、残量の管理が不可欠です。
- ライブラリの互換性:サードパーティ製ライブラリの中には、ラズパイ5の新しいOSにまだ対応していないものもあります。事前に情報を収集し、動作確認を行うことが求められます。
- 学習データの管理:機械学習モデルの訓練には、十分なデータセットが必要です。データを適切に選定し、前処理を行うことでモデルの精度が大きく向上します。
実装のヒント
- ライブラリ選定:OpenCVやTensorFlowなど、エッジAIに適したライブラリを選び、事前にインストールしておくことが重要です。特に、処理速度を重視する場合には、軽量なモデルを選ぶと良いでしょう。
- サンプルコードの活用:コミュニティの提供するサンプルコードやプロジェクトを参考にすることで、スムーズに実装を進めることができます。
このように、ラズパイを用いたエッジAIの運用には多くの可能性が広がっていますが、その実装には慎重な準備と適切な環境が求められます。
まとめ
ラズパイ5は、高性能なプロセッサやGPU、そして優れた入出力機能を備え、エッジAIの実装に最適なプラットフォームとなっています。初期設定も簡単で、オープンソースのエコシステムにより様々なライブラリを活用できるため、開発者は手軽にAI機能を試すことができます。ただし、温度管理や電力供給、ライブラリの互換性などに注意を払う必要があります。これらの課題に適切に対応することで、ラズパイを活用したエッジAIによる新しいプロジェクトの可能性は無限大といえるでしょう。エッジコンピューティングの未来を切り開くため、ラズパイ5の活用は大いに期待されています。

